Jazz Bass Blog

Exploring The World of Jazz and Low Note

ギターにインレイ(ポジションマーク)は必要ない/ Inlays On The Fretboard Aren't Necessary

今回はジャズの即興におけるインレイの有無について書いてみる。

 

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ジャズにおいて最も難しく、重要なことは、脳で考えてある音楽を、筋肉や神経を通して楽器にできる限りその音楽を壊さずに伝達することだと思う。

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当たり前だけどウッドベースの指板にはインレイどころかフレットは存在しない。だから自分の耳と練習で培った手のポジション移動で音を見つけることになる。でも弦楽器だから指板上には”形”が存在する。メジャースケールの形、マイナースケールの形、アルペジオetc...。色々な形が存在してそれに沿って即興を行うことも多い。ただ、ウッドベースで即興を弾いている自分と、エレキベースで即興を弾いている自分には決定的な違いがあった。それは脳が楽器とうまくリンクしている度合いだった。

 

ウッドベースの場合、当然演奏中は基本的に指板は見ないから、頭の中のアイディアが直接楽器に伝わる感覚があった。だけどエレキの場合、指板やインレイを目視してしまいそのリンクを遮断していると感じた。

 

インレイが即興の邪魔をする。そう感じたのは最近になってからだ。

ちょうど自分の演奏動画をとって、それを再生してみると、指板を常に覗き込んでいる自分が映っていた。それから、指板について意識しだしてから、こう思い始めた。”インレイが自分のソロを妨げている”と。ウッドベースと対比して、自分がエレキベースで即興を生み出すプロセスは全く異なっていた。まず、自分の目がインレイを捉える。それで位置を確認して、バックから流れてくるコードに当てはまるフレーズを頭の中で考えて演奏する。このプロセスの一貫は無意識的で、一瞬で行われるものだ。だがこれでは楽器と脳が直接繋がる理想形とは言えない。指板の視覚的情報が指示を出して、脳がそれを受け取っているのだった。それを防ぐ手段として、即興中に弾こうとする音を歌うことがあるけど、ずっと歌い続けるのもなかなか大変だったりする。

 

インレイが決定的にジャズの妨げになる理由はもう一つある。それはインレイがあるかないかで、音の覚え方に違いが出る。インレイが存在する安心からか、音と音の指板上の関係性を意識しないで演奏できてしまう。例えば、ド(C)という音が合って、ギターを演奏する時に見る視線からみてみると、斜め一個上にミ(E)が存在する。それは何故かというと、ミ(E)はド(C)の3度だからである。こういった繋がりをインレイは排除する。ポジションマークの位置と距離から、無意識的にド(C)とミ(E)の位置を考えてしまいがちである。例えば、フレットを縦方向で見た時に、インレイがないからそこはナチュラルである可能性が高いから指が抑えることが出来るポジションだと錯覚してしまう。前述の例だと、一般的なベースギターの場合、2/3の確率でインレイが付いている縦列はCの可能性が高い。だから、ギターを始めた頃は、それに助けられるけど、最終的にはそれが障害に繋がる。自転車でいう補助輪のようなものだと思う。最初は役に立つが、補助輪付きではスピードはでない上にスムーズに動かない。

 

人の能力は制限がそこにある時にはじめて鍛えられる。逆もまた然りで使われない力は自然に排除される。日常生活では、使われない筋肉はどんどん衰えていくし、数学の計算も普段からし続けないと、公式を忘れる。だからコード音を識別するといった能力や、フレットの上にある音の位置やそれらの関連性を覚えるといった能力も、自分を練習する環境下に身をおいて'制限'しないと備わらない筈だ。

 

インレイ無しのギターで音の関連性を練習するのも全くそれと同じメカニズムだと感じる。インレイありだと無駄にフレットを凝視してしまう、それはつまり無意識的に楽器と脳のリンクを遮断しているのではないだろうか。だからインレイ無しのギターで音探しを鍛える必要がある。

 

最終的には、指板を見ない、というのがギターと脳をリンクのには一番適していると思う。なぜなら、脳がアイディアを構成して、それを腕や手が表現するという構図ができるからだ。そこに視覚という第三の情報は補助的に作動するべきで、メインとして意識が使われるべき要素ではない。例えば、ジャズスタンダードの本にある曲のコードや、メロディを見ながら演奏するより覚えて演奏する事の利点が多い理由は、自分の意識が視覚という情報に使われているからだ。見ないで演奏できればその意識を自分のリズムや即興に割り当てる事ができる。

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ただ、前述ではウッドベースエレキベースと比較して例に出したけど、ウッドベースはヘッドからボディに繋がっているネックまでの指板の距離が短いから、指板を見ないでも左手のポジショニングをスムーズに行う事ができる。対照的にエレキベースはヘッドからボディに繋がるネックまでの距離が長いから、指板を見ないで左手のポジションを変更するのは難しい。(これについてはジャコ・パストリアスも指摘していた)

 

だから提案として、ポジション確認するなら指板のサイドについているポジションマークで十分じゃないかなと思う。指板にインレイがなくてサイドのポジションマークのギターで練習するとした場合、そのポジションマークの縦方向の音やそこから広がる横方向の音の関連性を暗記できる。従ってインレイが指板に直接付いているよりも、音の関連性を覚えるという意味では断然効果的だと感じる。

 

 

Steve